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賞与は年3回支払う~行動科学の面白さ

私のクライアントに必ず年3回賞与を支給する会社があります。
普通の会社は夏と冬の2回ですが、その会社は創業以来ずっと年3回賞与を支給しています。
ある時社長に「賞与を毎年3回も出せるなんて凄いですね。毎年業績が伸びているのですか?」と質問すると、その社長は、こうおっしゃいました。
「そんなに儲かっているわけじゃないよ。賞与を3回支払うのは理由があるのだよ。12月から7月までの間が長すぎるだろ?そうすると「12月に賞与をもらって辞めようかな?」って考えてしまう社員はよくいるものだ。そんなこと考えてもらっては困るから3月にも賞与を支給すると決めている。3回支給しているけど2回支給の総額と大して変わらないよ。3月と7月と12月に賞与がでるとなれば、辞めようと考える機会は必然的に減る。3回に分けた方が効果的だろう?」

会社の入退社の手続きをいつも行っていますが、確かに12月の賞与をもらった後に退社される方は多いと思います。
したたかな社長だなと思いましたが、ある意味これも社員さんたちの行動から確立された一つの「行動科学」かな?と昔勉強したことを思い出しました。

行動科学とは?

行動科学…あまり聞きなれない言葉かもしれませんが、その名の通り労働者の行動を科学する学問です。
社労士試験を受験していた時に、一番面白かった科目は一般常識科目のこの「行動科学」でした。
そこには労働者にやる気になって働いてもらうにはどうしたらよいのか。労働者の生産性を上げるにはどうしたらよいのか。というような研究をしている歴史上の人々の話が載っていました。
私に講義をしてくださった先生が楽しい人だったというのも興味をもった理由かもしれません。先生は最初にFWテイラーさんという方の話をしてくださりました。

同じ仕事でも休憩時間を決めるだけで効率が違う

今から100年以上前のあるアメリカの工場長だったテイラーさんが実験を行いました。
ある日テイラーさんが製品を移動させる仕事を労働者に命じました。
その際に、荷物を運ぶ仕事をする労働者を二つのグループに分けます。
Aグループの労働者には特に休憩の指示を与えず、ただ「運びなさい」と命じました。
一方、Bグループの労働者には「1時間おきに10分休憩を必ずとって運びなさい」と命じました。
結果、なぜかBグループの方がAグループよりも、より多くの製品の移動ができたといいます。しかも3倍も!
なぜそのようなことが起こるのか。普通に考えればAグループの方が休憩なく働いているわけですから、より多くのものを運べそうです。
しかし、実際のAグループの行動は違います。休憩を決めていないため、疲れた労働者が休み始めます。するといつのまにかAグループの中で最初に休憩を始める人に合わせてAグループ全員が休憩するようになりました。そしてまた一番休憩時間が長い労働者に合わせてAグループ全員が休憩時間を長めにとるようになっていきます。
結果、休憩時間が決まっているBグループの方が製品を多く運べたという結果になったそうです。
その後テイラーさんはストップウォッチで労働者一人一人の作業時間を計測し、短い時間で多くの製品を製造できた人の時給単価を上げていきました。
短い時間で多くの報酬を得る方法を労働者に提案することでテイラーさんの工場の生産性は飛躍的に伸び、多額の利益を生みました。
後にこの方法は科学的管理法と呼ばれるようになります。

テイラーさんは人の行動に着目して、生産性を高める方法を最初に提案された方といえます。現代でも工場のラインで働く人達はテイラーさんの科学的管理法に近い形で働いている方もたくさんいらっしゃると思います。

科学的管理法は非人間的!? あらたな理論 人間関係論

テイラーさんの科学的管理方法が確立され、世界中の工場で導入されるようになると、その手法が非人間的だと叩かれるようになります。
チャーリー・チャップリンのモダンタイムスが放映された時代の話です。
まるで人が工場のロボットのように働く姿は多くの人の笑いを誘いながらも、資本家の理論により確立された管理方法を批判していました。
やがて人はロボットではない、ただお金を稼ぐためだけに働くわけではないという考え方が広がっていきます。
そんな中、メイヨーさんとレスリスバーガーさんによる「ホーソン工場での実験」が行われました。
確かホーソン工場で働く人2~3万人から5年かけてアンケート調査や追跡調査を行ったと記憶しています。
その結果から、社員の生産性を上げるためには「モラール」を高めることが必要なことと、モラールを高めるためには職場の「人間関係の改善」が必要であることを発見しました。
初めてこの話を聞いたとき、生産性を高めるためには社員間の親睦が重要だということが理論化されたのだと私は理解しました。
その他にも「インフォーマル組織」という会社で把握していな職員同士の仲良しグループの存在が、よりモラールの向上につながることを実験結果が証明します。これもなんとく感覚としてわかります。仲のよい人がいる職場の方が活き活き働けるはずです。

ハーズバーグさんの動機付け・衛生理論

その後、より生産性を上げていくために「モチベーション」が議論されるようになります。
どうしたらモチベーションを上げて仕事できるのか? モチベーションが上がるってどんなとき? とういことを考えて理論化したのがハーズバーグさんです。
難しい言葉でいうと二元論とか動機付け衛生理論とかいいますが、要はどんな時に人はモチベーションがあがり、どんな時にモチベーションが下がるのかという理論です。
下図の棒グラフを見るととてもわかりやすいです。上の「動機付け要因」はモチベーションが上がるとき。下の「衛生理論」はモチベーションが下がるときと考えてみましょう。
賞与は年3回支払う 行動科学の面白さすると人は達成感や承認を受けた時、責任ある仕事を任された時に満足度が上がっていくことがわかります。
一方で、会社の方針や管理は満足度の低下の一番の原因になっていることがわかります。

とても大切な要因であると思われる「給与」はどうでしょうか? 給与は衛生要員領域にあり、微妙な立ち位置に存在します。
「給与」は満足度を上げることも下げることもあまりなさそうということがわかります。
このハーズバーグさんの理論から「会社の方針と管理」がとても大切なこと、仕事には達成・承認・責任といった「やりがい」が必要なことを学びました。
そして給与はあまりモチベーションに関係していないということも知りました。

これらの「行動科学」は現代でも経営に役立てられる

事務所を開業して人を雇用するようになり、実際に社員さん達と一緒に働いていて本当に良かったなと思うのは、この「行動科学」を知っていたということです。
昔の偉人の皆様方のおかげで、どうしたら人が定着するのか、安心してやりがいをもって働いてもらえるかが、漠然とですがわかっていました。
皆様の会社や職場はどうでしょうか? 人が次々と辞めてしまったり、辞めたいなと思うよう職場になっていないでしょうか。
もしそうであるならばメーヨーさんやレスリスバーガーさんの実験やハーズバーグさんの棒グラフを思い出してみてください。
人をマネジメントすることは難しいですが、自分をマネジメントすることは簡単です(by ドラッガー)。 職場を変えることはいつでもできます。職場は「行動科学」の実験場です。
毎日、職場を観察し、どうしたら皆が活き活きと働き成果を上げられるかを考えましょう。きっと楽しいはずです。
冒頭の賞与を3回支払う社長さんのように、職場や人の行動を科学してみましょう。あの社長は今もきっと楽しく科学しているはずです。